#43 一目惚れの約束 サンプル

#43


本文サンプル

 それは残暑のある日、まだ、新井が父親のことで悩んでいたころのこと。


 室内は冷房で快適に冷やされていて涼しいが、午後の日射しが強すぎずよわすぎず、ちょうどぽかぽかと暖かくて、ついうたた寝をしたくなる時間。
 管理人室でぱらぱらと雑誌をめくって暇つぶしをしていた奏は、ふと、手をとめて特集されている記事を真剣に読みはじめた。
 そこへ、通りがかった住人が声をかけてくる。
「せーんぱい。なに真剣に見てるんです?」
「おう、梓馬。これから仕事か?」
 派手なスーツに身を包み、いかにもな風貌で現れたのは高校時代の後輩でもある小田切梓馬だ。彼はその見た目を裏切らずに、勤めている店でナンバーワンのホスト。だいたい夕方から、日が落ちるぐらいの時間に仕事に向かうことが多いが、今日は特別早い。
「そう。ちょっと早めに行って、新人の面接やらなきゃいけなくって」
「へぇ。ナンバーワン様もそういうことやるのか」
「やるやる。ちいさい店ですからね」
 言葉を交わしながら管理人室の扉をあけると、中にはいってくる。早めに行かなくてもいいのだろうかと思うが、時間つぶしにきたのかもしれない。
 ちょうど暇をしていたので、奏も話し相手になってもらうことにした。
「で? なに見てたんです?」
「いや。ただちょっとこれが気になってただけだ」
 先ほど真剣に読んでいたページを、梓馬にもみえるように大きくひらくと、覗きこんでくる。
 新作アクセサリーを特集した記事で、雑誌にはありがちなページなのでとくに目新しいわけでもない。しかし奏は、その右下に描かれていたあるアクセサリーに目を奪われたのだ。
「リングですか」
「これすげぇ、よくねぇ?」
「まあ、いいんですけど……なんか、先輩っぽくないかな」
「確かに、俺っぽくはないな」
「え? 先輩がつけるためのを、見てたんじゃないんです?」
「違うちがう」
 梓馬は不思議そうに首をかしげたものの、すぐになにか納得して、ああ、と声を漏らした。
「リング贈るような仲になったんですね」
「ぶっ」
 思わず奏は吹きだす。


書き下ろし『一目惚れの指輪』より

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