#48 E.F.K MIX 7 サンプル

#48


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「イヤです。絶対に、イヤです。言いたくないですし、そんなのないです」
 かなり強い拒絶は想像を超えていて、まさかの事態に情けないことに動揺してしてしまう。
 多少は嫌がるかもしれないと思ったものの、ここまで頑な姿勢をとって籠城してしまうとは。
「修司……」
「オレは絶対にやりませんからね、そんなお題。新しいの引いて、そっちをやりましょう?」
「しかし」
 かわいらしく懇願する上目遣いで見つめられると、うんと了承したくなってしまうがそこはさすがに譲らなかった。
 こちらの視線に乗せた感情を正しく読み取られ、上目遣いのおねだりが効かないとわかると、すぐに視線を逸らされてしまう。あまり漏らすべきではないとわかっているけれど、ため息を漏らしそうになってしまう。

 目が覚めたら朝を迎えて、今日もいつもと変わりない一日をスタートさせるはずだったのに、どうしてこんなことになってしまったのだ。
 困惑する心を落ち着かせて室内を見渡した結果、見つけたのはドアらしきものと、そこに立てかけられたプレート。書かれた文字は、抽選箱に入っているクジを引いて、そのお題をクリアすればここから出られるという、非現実的なものだった。
 ドアにはノブがなく、押してみたが動きそうにない。また、室内には出入り口と思われるノブのついていないドアの他にも扉らしきものはいくつかあって全てチェックしたがシャワールームだったり、トイレだったり、よくわからない荷物が詰めこまれたクローゼットだったりと、外に繋がっていそうなところはひとつもなかった。
 つまり、どういう理由でここに連れてこられたかは見当がつかないものの、気味の悪いこの部屋からでるためにはお題をこなさなければいけないらしい。逆に考えればお題さえ済ませてしまえばでられるということだ。
 室内をくまなく捜索した結果導きだされた答えがそれだが、そもそも論として、一体どういう状況なのだと問いたいが、あいにく答えをくれそうな人もいなければもののない。
 昨日も特に変わりない一日を過ごして、愛しい恋人――いやもう、伴侶と言うべきだろう彼が待つ店に立ちより夕食を食べると、すっかりマスターという仕事にも馴染んできた様子を見つめて閉店時間を待ち、ともに帰宅する。
 帰る家は同じ場所。一緒に風呂にはいって、ベッドに入って、眠りについたのは二時過ぎぐらいだったはずだ。そう、自分は確かに眠りについた。
 そして目覚めたらこの通り、見覚えのない、しかしどこか既視感も覚えるワンルームにいた。眠りについたときと同じように、ふたりで同じベッドに入っていたことにまず胸をなで下ろした。もし彼ひとりでよくわからない場所に連れていかれてしまったかと思うと、憤りで気が狂いそうになっていたに違いない。腕をぎゅっとつかみながら、気持ちよさそうに眠ってくれていたことも、当然安堵に繋がり、混乱からすばやく立ちあがり、冷静さを取り戻すきっかけとなった。
 とにかく、守らなければ。
 気味が悪いこの空間から一刻も早く脱出するためには、プレートに書かれているとおりにお題とやらをクリアしてしまうのがはやいだろう。
 そう判断して、彼が寝ている間に全てを終わらせてしまうつもりだった。
 しかし、残念なことに引き当てたお題は自分ひとりではクリアできるものではなく。
 隣にあるはずの温もりがなくなっていることに気づいて目を覚ましてしまったところ、ゆっくりと状況を説明して協力を求めてみたのだが、あっさりとかぶりをふられてしまったのだ。
 そして、問答を続けること三〇分ほど。
 すっかり頑なな拒絶の姿勢に入りこんでしまって、お手上げだ。
「凌さん、これ、夢ですよね? だったら別に、このままベッドでごろごろして、夢が終わってくれるのを待ってもいいんじゃないですか? わざわざそんなお題、がんばろうとしないでも」
 夢。
 ああ、そうか、夢か。
 その可能性を考えなかった自分を恥ながらも、幸運にもとても簡単なお題を引いたのだからこなして外に出てしまおうと主張した。
 たとえ夢であったとしても、こんなよくわからない自宅に酷似した謎の空間からは、さっさと出てしまったほうがいいに決まっている。
 しかし世界一大切な彼は、絶対に首をうなずかせてはくれなかった。
 これはもしかしたら、夢から覚めるための方法を探したほうが、早いかも知れない。
 そんな考えが何度かよぎった。

凌×修司『I don't want to wake up』より

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