E.F.K parody story

E.F.K × オメガバース [ スヅクリ ]

 どうしてこんな身体になってしまったのか。
 もっというのであれば、その性を運命づけられた人間には、なぜ自分が「Ω」であるのかという悩みを一度ぐらいは抱えたことがあるのだろう。
 もう少し若い頃には、そんな不満も抱えていた気がするが、こうなってしまったのだからグダグダ言っていてもしかたがない。要は、うまく付き合っていけばいい。それだけだ。
 しかし、自分にはうまく付き合えないでいる大きな理由があった。
 本来であれば、数ヶ月に一度、一定の周期で訪れるはずの発情期。人により差はあるものの、一週間ほど前から徐々にその兆しが現れるという。しかし、残念なことに不安定で「不完全」なこの身体は予兆もなにもなく唐突にその波が襲いかかってくる。
 所詮は、できそこないの、限りなくΩに似た「なにか」なのだ。
 本当にΩとしての性質をもっているのかも怪しい身である。Ωの最大の特性ともいえる、妊娠だってするかどうかわからない。だったら発情期も来なければいいのに、残念ながらそればっかりは逃れられないらしい。煩わしいことこの上なかった。
 今日だって、身体が唐突に熱をあげたはじめたが、数日前からの前兆など一切なく、本当に、いつもと変わりない日常をすごしている昼間のできごとで、大いに戸惑ったのだが。
 ひとり、まったく、戸惑うことなく図ったかのように姿をみせた男がいた。

「お昼一緒に食べませんか?」

 仕事にでていたはずの男が帰ってきたのは、十一時をすぎたころ。
 社長がサボってばかりいると社員がかわいそうだ、などと悪態をつきながらも管理人室に彼を迎え入れたが、どうしてか部屋で食べましょうと言って聞かなかった。
 こうなったら、梃子でも動かないことは重々承知しているし、あの手この手を使って無理やり部屋に連れこもうと画策することも目に見えている。
 無駄な体力を使うことも、苛立ちを覚えることも面倒くさかった。
 訝しげな表情を浮かべながらも、仕方なく休止中の看板をかけて管理人室を後にすると、にっこりと音がしそうなうさんくさい笑みを貼りつけた男は静かについてくる。
 そこまでは、大体いつもどおり。
 しかしそこからが、いつもと大きく異なった。

「寝室をお借りしても?」
「は? 調子でも悪いのか?」
「いえ、私ではなく。貴方のために、準備が必要かと思いまして」
「……なんの?」
「ああ……本当に、お気づきにならないんですね」
「だから、なんの話だよ」
「もうすぐ、わかりますよ。どうぞ、お昼食べていてください。私もあとでいきますから」

 さっぱり意味がわからなかったが、彼から向けられる視線に微かな違和感はあったように思う。
 調子が悪いのではないかと勘違いしたのも、その視線の違和感のせいだ。どこか、なにかに耐えているような、そんな色に感じた。

 そして、男の予言した「もうすぐ」がやってきてようやく意味を理解する。

「……なぁ……」
「いかがしました?」
「なんで、おまえ、きづ……いた?」
 はぁはぁと肩で荒い呼吸を繰り返しながら、短く言葉を吐きだしていく。発している強烈な匂いを察してか、寝室で「準備」をしていたはずの男は、異変を実感して数分も経たぬ間にリビングへとやってきた。
 それは、昼食を食べ始めてすぐのこと。
 熱の波が唐突に身体に襲いかかり、あっという間に飲みこまれ、気がつけば、身動きの取れない状態になっていた。力が入らないし、目が潤んで視界も歪んでいる。吐きだす息は熱く、小刻みに震える身体を自身の両手でぎゅっと抱きしめた。
 間違いなく、発情期の症状だ。
 革張りのソファーに転がると、熱を吸い込んでいない箇所が冷たく心地いい。眉間に皺をよせながらきつく閉じたまぶたをゆっくり開けば、しゃがみこんでこちらを見おろす男と目が合った。
 たまたまではなく、事態を察して帰ってきたようだが、なぜ本人もいつ訪れるかわからない発情期を、この男が事前に察することができたのか、まったくわからない。
 心配と興奮が入り交じる視線を向けられて、背中から頬のあたりにかけて、肌が粟立った。
「だから、いつも言ってるじゃないですか。運命の番のことは、離れていてもわかるんです」
「……どうだか」
「さすがに、今朝は微々たる変化しか感じられませんでしたので、事前にお伝えすることはできませんでしたが、帰ってきて確信しました。よかったです。ひとりする時間をなくせて」
「ははっ、そりゃどうも」
 指先が汗ばんできた額に触れ、かかっていた前髪をかきあげる。
 それだけで、下半身に鋭い快楽が走った。
 このまま触れられ続けると、口を開けば喘いでしまいそうで、ぐっと奥歯を噛みしめる。胸裏では、大きな舌打ちがもれていた。

 これだから、ヒートは面倒臭い。

「さて。このままだとお辛いですよね。準備できてますので、寝室へどうぞ」
 逆さまのままの視界に差しだされた手を、ぼぅとした頭で見つめる。
「は?」
 帰ってきたときから準備じゅんびと言っているが、一体なんのことかさっぱり思い当たらない。発情期を迎えるに当たって寝室に用意するものなどあっただろうか。それともいよいよこの男は、自分を抱くのだろうか。
 しかし、そんな予想を覆す、斜め上の答えが降り注いだ。
「快適に過ごせるように、巣、作っておきました」
「……なんで、っ、おまえが? ふつう、それ……Ωがやるやつ、だろ」
「いえいえ、自然界では雄が巣作りすることが多いんですよ。立派な巣を作る雄はモテるともいいますし、張り切って、かなり立派な巣を作ったので気に入ってもらえると思うんですが」

 冷たさを含んだ沈黙が、リビングに充満する。

「あの、そんな、冷たい目で固まらなくても……」
「ここでいい。ちょっと、腕一本貸せ」
 差しだされていた手のひらに力の入らない手をのせる。そして今できる精一杯の力で引っ張った。
「いやいやいや! せっかくなので! 向こうで寝ましょう! ね? 丁寧に運びますから」
 ここ何回か経験している発情期は、みな、彼が添い寝してくれることでずいぶん楽になっている。
 おそらく、彼から発される匂い、αのフェロモンというヤツがそうしてくれているので、腕一本でもあれば十分だろう。
 正直眠る場所はどこでもよかったし、もう一歩も動きたくなかった。
「やだ、めんどくせぇ、ここでいい、とりあえず、腕よこせ」
 本能が求めているのか、とにかく楽になりたくて彼の腕を引っ張る力が少しずつ強まっていく。
「ちょ、いたいですいたいです! 俺の腕は、そんなに簡単にはずれません!」
「じゃあ、そこで寝ろ」
「……そんな……床で寝たら段差付いて添い寝にならないじゃないですかぁ……」
 泣き言のような声をあげる男は一歩も動く気のない強い意志に抗っていたものの、どんどん呼吸を荒くし、汗が玉となって流れ落ちていく様子を見ていられなくなったようで。
「膝枕で、いいですか」
 苦々しい表情を浮かべながら、丁寧な手つきで上半身を起こさせる。
「少し汗ふきますよ。薬は……駄目なんでしたっけ?」
「おー」
「身体倒しますね。大丈夫ですか?」
「ん」
 全身の感覚が鋭くなっていることを気づかってか、丁寧すぎてなんだかくすぐったさを覚えた。繊細な壊れ物でも扱っているかのようだ。
 こんな状態の自分を見るのは初めてでもあるまいに、何をやっているのか。
「おまえ、さ……なんで、抱かねぇんだ?」
「抱いてほしいんですか?」
「まぁ、てっとりばやく、らくになれそうでは、あるよな」
「内側に籠もっている熱を発散させることでつかの間症状が落ち着くことはあると聞きますが、あくまで一時的な対処でしかないと思いますよ。きちんと番を得ていない状態でαに抱かれたりしたら、余計なフェロモン振りまいて、手当たり次第雄を引きよせることになるでしょうね」
「ふーん」
 物騒なことを口にしながらも、汗を拭き、髪を梳き、頬を撫でる指先から伝わってくる甘やかさに思わずすり寄りたくなる。膝枕されて、彼から発される匂いを肺いっぱいにすいこみ、徐々に落ち着きを取りもどしてはいるものの、身体を襲う熱が冷めることはない。
 しかし、このまま目をつぶったら、眠ってしまえそうだ。
「そうでなくても、貴方の匂いはとても惹きつけられますから。今以上に、αもβも、惑わして狂わせたいのならお望み通り抱いて差し上げますよ」
 オチそうになる意識に鞭を打ち、
「そしたら、……おまえも、くるうのか?」
 薄く膜がはって潤んだ瞳でまっすぐに、男を見上げる。
 頭上から、はっと、息を飲む気配がした。
 彼は、質問に答えない。そしてその眼差しの奥底に、あふれ出ていた感情をしまい込んでしまう。
 ああ。ドアが閉ざされた。
「狂うなんて……もう、そんな場所はとっくに通りすぎてますよ。貴方の望みどおり、次のヒートまでにどうやって腕を取れるようにするか、考えるぐらいにはね」
「ボタン押して、飛ぶようにしろよ」
「ロボットアニメじゃないんですから」
「あと、返すのめんど、くせぇから……自動で、もどるよう、に」
 繰り返し頭を撫でられて、もう半分以上まぶたが落ちている。辛うじて話をしているが、口調も危うい。そんな様子に、苦笑が降ってきてあと、諦めの悪い最終確認が耳に届いた。
「本当に、このまま寝ちゃいますか? 寝室が最高の環境で貴方を待ってますよ」
「ここでいい」
「即答ですね……はぁ、せっかく巣作りしたのに……」
「あした、とか、気が……むいたら、な」

 目を覚ましたら、このまま膝枕のままかもしれないし、立派な巣が出来ているというベッドへ運ばれているかも知れない。
 どちらにしろ、今日から一週間は続くであろう発情期は、今回も楽に終えられそうだ。
 包みこまれる匂いに安堵しながら、荒い呼吸は次第に穏やかな寝息へと変わっていった。



「きちんと番となったら、イヤと言うほど抱きますので覚悟しておいてください。きっと、添い寝のほうが楽だったって思うでしょうね……」

 だから、いまはまだ、穏やかな眠りを届けます。
 おやすみなさい、奏さん。




2018/08/23 privatter | 2018/10/17 サイト公開


 
 
 

 
 
 

 
 
 

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