E.F.K parody story

E.F.K × 出られない部屋 [ 奏と新井の場合 ] 1

 あまりにありえないことが起こったとき、現実として脳が受けとめきれないとき、ほとんどの人は「ああ、夢か」と思うだろう。類に漏れることなく、奏もそう感じて言葉を漏らしそうになったが、視界の端から当たり前のように飛びこんできた人影のせいで飲みこむ羽目になる。
 これを現実として認めることはできないが、あまりにリアルだ。
 何より、夢だと言い切ってしまうとそれはそれで面倒くさい。この、うさんくさい笑顔を貼りつけて、視線が交わるのを今か今かと待ちわびている、この男がなんて言うかを考えただけでうんざりしてしまう。
 貴方の夢に遊びに来られるなんて光栄です、とか、お手本のように口角を上げて、平気で言うに違いない。間違いなく、絶対に言う。
「わりぃ、もう一回」
 だから、先ほど聞かされて唖然とした内容を、もう一度聞き返すことがとりあえず、今この場でできる最善の対処法であると判断した。
「ですから、ここは与えられたお題をクリアしないとでられない部屋、のようです。あそこにそう書いてあります」
「……書いてあるけど。なんなんだよ、その、お題をクリアしないとでられないってのは」
「奏さん知りませんか? 最近、流行りのリアル脱出ゲーム」
「あー、聞いたことぐらいはあるけど」
「きっとそれです」
「……いや、それです、じゃわかんねぇよ」
 自信満々にそう言い切られたところでまったく説明になっていないのだが、彼は詳しい説明をしたくないのか、できないのか、進んで言葉を重ねようとはしない。普段、これでもかというほどその舌はまわるというのに。
「質問変えるわ。ここ、どこだ?」
「それが……私にもよくわからないんですよね」
 現実として受けいれがたい目の前の状況が、この男が持ちかけたいつものお遊びの範囲内であることを願って質問を変えたが、どうやら、説明できないほうが正しかったらしい。奏は大きなため息とともに、ぐるっとあたりを見渡した。
 ここは、限りなく自宅の寝室に近い空間であることに間違いはない。しかし、違う。寝具のさわり心地も香りも違うし、家具の配置も微妙に違う。
 ほっとするような安堵感は一切無く、ただひたすら居心地の悪い違和感だけを覚える空間。
 この場所の正体がわかっていない、状況を整理しきれていないというのもあるが、この部屋はそれだけではないなにか独特の雰囲気を漂わせている。
「俺の部屋になんか仕掛けたわけじゃねーんだな」
「さすがにもう、無許可でそんなことしませんよ。奏さんが起きる前にひととおり調べてみましたが、外にでられそうな扉はアレだけ。残念なことに何をやっても開きそうにないですし、室内にあるものでは対処のしようがなさそうでした。壁を蹴ったりはさすがにやってませんけど」
「無駄だろ」
「ですよね」
 眼鏡を一度ははずし、目を擦ってから再びかけて、よくよく壁に掲げられている文字を読み直す。確かに、彼の言うとおりに書かれている。

 ――クジを引いて、そこに書かれているお題をクリアしなければ、ここからでられません。

「細かな説明がこの紙に書かれていたので一応読みました。どうやら、クジを引くチャンスはひとり一回。どちらかのお題をクリアすればでられるけれど、お題を両方同時に見ることはできないようですね」
「つまり?」
「私が先に引いてあるこのお題をクリアするか、できないと判断して奏さんの引いたお題をクリアするか。どちらか選択を迫られている、ということです」
 言いながらベッドに腰かけたままの奏の目の前に差しだされた、一枚のカード。
 そこに書かれていた文字を読んで、奏はまたこう言いたくなった。

 ああ。間違いない。
 夢だな、これ。