E.F.K series

惚れ直してもいいですか?
(文目の願いの話)


 ――拝啓、恋人さまへ


「ただいま」
「おかえり、お疲れ」
 玄関で靴を脱ぐ一瞬さえもどかしいと感じてしまう。遠く離れていた存在が、恋人になってくれると帰ってきてからまだ一週間経つかたたないか。
 正直、激務の真っ最中で浮かれている暇などなかった。
 原因は、彼が帰ってきたことにある。
 関西ではかなり人気のあるDJとして活躍していて、見目もいいことから女性の口コミがいつの間にか関東にまで伝わってきていた。インターネットなどの普及を思えば、それは簡単なことだったのかもしれない。
 しかし、関東の人間には彼の番組を聴くことも、彼に会うこともなかなか難しい状況だった。
 インターネットラジオには出演しないし、関西で聞けるFM局限定でのDJを貫き通していたのだ。
 しかしこのたび、縁あって関東の仕事が入ったらしくそちらで番組を一本担当することになったらしい。もちろん関西での仕事も続けていくらしいが、仕事のメインの拠点は関東に置くと言っていた。
 そんな彼が。
「原稿、上がったのか」
「まあまあ」
「なんだそれ。本人がチェックしてあげようか?」
「いい」
 和真がいる編集部が発行している女性誌にだけ、取材を許可した。しかも、担当は和真を指名して。
 次号で大きく特集として組まれるのはもちろんのこと、連載で何かできないかとさえデスクが言い始めている始末。取材の許可をお前が取って来いだなんて、なんて無茶を押し付けるのか。
「他の雑誌の取材も受けろよ」
「イヤだよ。苦手なんだって、ああいうの」
「でも、いい宣伝にはなるだろ」
 拠点を関東に移すというのは、いくら話題の人だからと言っても簡単なことではないだろう。だったら、どんどん顔を出して、取材も受けて、なんだったらテレビの仕事なんかも入れて。
 自己アピールをしていったほうがいいのではないか。
「その辺は、有能なマネージャーに任せてあるから大丈夫」
「そうか、マネージャーがいるのか」
「当たり前だろ。さすがに向こうでは仕事の数、半端じゃなかったから自分で管理なんて仕切れなかったし」
「俺はこれからそうなりそうだ」
 普段の担当ももちろんこなさなければいけない上に、特集記事というプレッシャー。
 独占取材なんてめったに出来るものではないから、これを失敗させるわけにはいかない。
 ネクタイを解きながら、リビングのテーブル脇に腰を下ろした。早く着替えないとスーツがシワになるとか、息苦しいとか色々考えたが今は彼のそばにいたい。
 せっかく、こうして、家で文目が待ってくれているのに。
「……なぁ、三上。お前、次の休みいつ?」
「わからない」
「そ、っか」
「何かあるか」
「ううん。そういうわけじゃないって。俺が独占取材とかさせたせいで、忙しいんだもんな。仕方ないよ」
 そういうわけじゃないのに、仕方ない。
 何かあったと考えるのが妥当だろう。
 和真は文目を手招きしてそばに呼ぶと、座ったまま彼を背中から抱きしめた。
「み、三上」
「ちゃんと言ってくれ」
「でもお前、仕事忙しいし」
「空けるから」
「……三上……」
 小柄で華奢な彼を腕の中に収めると、それだけで安心する。熱が胸に灯る。ああ、ここに彼はいるんだと、強く実感できる。
「どこか行きたいところとかあるのか? 久しぶりだから、この辺りも色々変わってるし」
「――じゃなくて」
「ん?」
「そうじゃなくて。お前が仕事してるところ、見せてもらったから、俺が仕事してるとこを見てほしいんだよ」
「え……」
 振り向きながら頬を膨らませて、じっと視線が和真が捕らえる。
「スタジオとか入ったことないだろ? だから、タイミング合うならついてきてくれないかと思って」
「いいのか?」
「当たり前だろ。俺は、お前にちゃんとそういう自分を見てもらうために、帰ってきたんだから」
 ぐっと、文目を抱く腕に力が入った。
 嬉しい。嬉しい。本当に嬉しいんだけど。
「それだけ?」
「それだけ……じゃ、ないけど」
「あとは?」
「あと、は……」
 見る見るうちに赤くなっていく文目が愛しくて、そのままその肩に額を押し付けた。甘えるように。
「あとは何か、教えてくれ」
「……お前と一緒にいたいから。お前のそばにいたいから、帰ってきた」

 でも本当は、怖かった。
 もう、俺のことなんか忘れてるんじゃないか。
 もう、俺のことなんか、待ってないんじゃないか。

 自分で言ったように、奥さんとか子供とかいて、それで。


「お前のとこ以外、これからも取材うけるのやめようかな」
「えっ」
「だって、そうしたらお前と一緒に仕事できるだろ? この前の取材も、楽しかったんだ……お前、めちゃくちゃかっこよかった。様になってたし」

 確かめたかった。
 その不安を打ち消せるなら、手段を選んではいられなかった。

「そうか?」
「ああ。だから今度は、俺の仕事姿みて、惚れ直させてやる」

 俺を見つけたときのお前の目が、嬉しくて。
 不安そうに別れたときの表情が、嬉しくて。

 忘れられてなかった。
 待ってくれていた。

 そうやって、確信できたんだ。


「――もう、惚れてるさ」
「そ、それじゃ困るんだよ! もっともっと、俺に惚れろよ」
「これ以上? 難しいかもな」
「そんなことはない。俺がちゃんと、お前に惚れ直したんだから」
「わかった。じゃあ今度、仕事の日を教えてくれ。なるべく、空けるから」
「うん」


 ありがとう、和真。
 これからも、よろしく。


 ――敬具、恋人より




2008/03/23 サイト公開


 
 
 

 
 
 

 
 
 

please reaction♪

読んだよーボタン

よかったらぽちっと押してやってください


一言感想フォーム

ご意見・ご感想・誤字脱字のご指摘などなど、気軽にぽちっとお待ちしてます〜

↑ PAGE TOP